カラス
5月10日12時51分
西南西の窓
風が渡る
翠の木の幹から伸びた枝の又に小鳥の巣があったのは、何ヵ月前のことだろう?
アスファルトは渇いて、とがってぼんやりした砂粒がもう海になった
その日、急に、わたしのひだりななめうしろから、一羽のカラスが世界に飛び込んできた
大きくて羽じゅう脂に濡れた烏は、小さな黒瑪瑙の瞳をして、首をかしげてなにかを眺めていた
手を伸ばしたら届きそうな空に、舞っては、降りて、
飛び去ろうとはしなくて、
たまに首をかしげてチラッとこっちに片目を覗かせる
16歳の季節がひとつ過ぎるまで、たしか毎日カラスは訪れて、きっとわたしは毎日こうしていた
わたしはその横顔を見つめるだけ
緑道を歩く親子が、
こどもは跳ねて、おとなはあきらめたようなくらい退屈な様子で、
わたしは窓を閉めてから大声で叫んだ
下顎をしゃくって前歯を噛むよりも、つまらない言葉を聞かせてやりたい
どうして、正面から訪れる人はみんな嘘つきばっかりなんだろう
あなたのその顔をたぶん幸せっていうんだよ?
太陽がうるさいから日が傾ききる前に、
わたしはそのカラスに名前をつけた。